目にまつわるさまざまな症状から、可能性のある目の病気を解説します。目の病気の多くは、初めのうちは自覚症状がなく進行が遅いため、自分ではなかなか症状の進み具合に気づきにくい特徴があります。目の健康維持には早期の診察をおすすめします。
レンズの役割を果たしている目の水晶体が白く濁る病気です。「物がぼやける」「白く濁って見える」「視界がかすむ」「まぶしく感じる」「二重に見える」などの症状があります。ピントを合わせにくくなり、視力低下を起こすこともあります。
白内障の主な原因は加齢によるものです。日常生活で紫外線の影響を受け続けると水晶体のタンパク質が変性し、視界が白く濁るようになります。原因のほとんどは加齢ですが、若年層でも、ケガなどによる強い圧迫や衝撃、アトピーや糖尿病、薬剤、放射線の影響で発病の可能性があります。
軽度の白内障であれば薬で進行を抑え、進行した場合は日帰り手術で治すことが可能です。角膜を切開して超音波装置で水晶体を砕いて乳化し、吸引除去した後にアクリル系樹脂やシリコンの眼内レンズを挿入する手術で、年間百万人以上が受けています。
眼球内部に炎症性の細胞が入り込み、炎症を起こす病気の総称です。痛みや充血が起こりやすく、「視界がかすむ」「いつもよりまぶしく感じる」「視野に小さなものが浮かんで見える」など、見え方の異常も現れます。片目のみに現れることも、両目に現れることもあり、症状が改善したり悪化したりを繰り返すケースもあります。
全身のあらゆる部分に起こった炎症の影響を受けてぶどう膜炎が発症する場合があるほか、白内障、緑内障、黄斑浮腫、黄斑変性などの深刻な合併症を起こすことがあるため、早めに専門医を受診することが重要です。
細菌・ウイルス・真菌・寄生虫といった病原性微生物が原因であれば、それぞれに有効な薬物を使った治療を行います。ぶどう膜炎は治療後に再発するケースが多いため、定期的な受診が不可欠です。
涙が少ない、または涙の質が変化して充分に眼を潤すことができなくなる病気です。不快感や視機能異常などの症状が現れやすく、目の表面が傷つきやすい状態になるため、感染症のリスクも上昇してしまいます。
室内の乾燥や、パソコン・スマートフォンの長時間使用はドライアイ発症の要因になります。原因や状態に合わせた点眼薬による治療が一般的に行われています。
涙と同じ浸透圧を持っている人工涙液の点眼による水分補給が一般的な治療です。まばたきの回数を意識的に増やしたり、加湿器で乾燥を防ぐことも効果的です。薬物療法で改善しない場合には、シリコンや合成樹脂、コラーゲンなどからできているプラグで涙点をふさぐ涙点閉鎖を検討します。また、涙の成分のうち、眼球を覆った涙の乾燥を防ぐマイボーム腺機能不全がある場合には、その治療を行います。
目の酷使や乾燥した環境により、目に大きな負担がかかって症状を起こす病気です。目の疲れや充血、痛み、見え方の変化、首や肩の慢性的なこりや痛み、頭痛、吐き気、手足のしびれ、倦怠感など、さまざまな症状を起こします。
集中していると、まばたきの回数が大幅に減少して目が乾きやすくなります。また、長時間の運転のように、同じような距離にあるものを見続けていると、ピントを合わせる筋肉が固まって「焦点を合わせにくい」「視界がかすむ」といった症状や痛みにつながります。
乾燥を防ぐために人工涙液などの点眼薬を処方します。加湿器を使う、まばたきの回数を意識的に増やす、パソコンを長時間使用する際はこまめに休憩するといった日常生活の改善も効果的です。目が疲れてきたら蒸しタオルで目の周囲を温めると血行が改善できます。
「近くは比較的見えるけれど、遠くが見えにくい」状態が近視です。ピントを合わせるには、目に入ってきた光が網膜で焦点を結ぶ必要があります。目にはレンズの役割を担う水晶体があり、この厚みを毛様体筋の働きで調節することで、様々なものにピントを合わせることができます。
近視は網膜の手前に焦点がきているため、遠くが見えにくくなります。光の屈折率に問題がある場合と、眼球が前後に長いことで近視が起こっている場合があります。屈折異常は遺伝的な原因と環境的な原因によって起こるとされていますが、はっきりしたことはわかっていません。
眼鏡やコンタクトレンズによる矯正が一般的ですが、レーシック手術や、特殊なコンタクトレンズで角膜を矯正するオルソケラトロジーといった治療も登場し、裸眼で問題のない視力を得ることができるようになってきています。
「遠視であれば遠くはよく見えるはず」と考えられがちですが、遠視は近くだけでなく遠くのものにもピントが合わず、どちらもぼやけて見えることがあります。これは遠視が網膜より奥に焦点を結んでいるため起こります。
光の屈折率に問題がある場合と、眼球が前後に短いことで遠視が起こっている場合があります。毛様体筋などへの負担が常時かかり、眼精疲労を起こしやすくなります。
眼鏡やコンタクトレンズによる矯正で対処を行います。近視は眼鏡を使用しなくても日常生活に支障がなければ問題がなく、症状が進行することもありませんが、遠視では眼精疲労のリスクが高いため、眼鏡を常時装用する必要があります。
年齢を重ねることで、水晶体が硬化して変形しにくくなり、ピントを合わせるための毛様体筋の力も衰えて老眼になります。近くのものに焦点を合わせにくくなっている状態です。
水晶体のピント調節力は20歳代から衰えはじめ、一般的には40歳前後で症状が現れはじめます。近い距離を見るときに負担が大きいため、眼精疲労につながりやすく、無理を続けると肩こりや頭痛、吐き気などを起こすこともよくあります。
手元の作業をする際には老眼鏡を使用します。遠くや近くの両方を頻繁に見る場合には、遠近両用眼鏡がおすすめできます。老眼は一般的に進行していきますので、数年ごとに検査を受け視力に合わせた眼鏡を使用する必要があります。手術による治療もあります。老眼手術単体でも可能ですが、白内障の手術時に多焦点眼内レンズを挿入するケースもあります。
「見る」機能において重要な役割を担う黄斑に病変があるため、さまざまな症状が現れます。急激な視力低下、ものがゆがんで見える変視症、視野の中心が暗く見える中心暗点、色が区別しにくい色覚異常など、見ようと思う部分が見えにくく、日常生活への影響も大きくなります。
萎縮型と、滲出型(しんしゅつがた)に大きく分けられます。萎縮型は、網膜色素上皮という網膜を支えている組織が主に老化によって萎縮して起こります。
滲出型は脈絡膜から延びてきた新生血管による、むくみや出血によって起こります。目に張り巡らされている毛細血管に動脈硬化などがあると、栄養素や酸素が不足し、それらを補うために新生血管ができます。新生血管はもろいため、成分の滲出や出血を起こしやすく症状が現れます。また、喫煙が加齢黄斑変性のリスク上昇要因であることもわかっています。
萎縮型の場合、進行がとてもゆっくりしているため一般的には経過観察が適しています。滲出型では、できるだけ早く新生血管を抑制して見えない部分を最小限にとどめることが重要です。レーザー照射により新生血管を焼き固めるレーザー光凝固術もありますが、現在は抗VEGF療法が主流になっています。これは、血管の成長を促すVEGFを抑制する薬を硝子体に注射する治療法です。
糖尿病の合併症には深刻なものがいくつもありますが、糖尿病網膜症はその代表である3大合併症のひとつです。成人の失明原因として日本ではかなり頻度の高い病気です。
血糖値が高い状態が続くと動脈硬化が起こり、血管の変形や狭窄、閉塞などが生じやすくなります。血管に必要な酸素や栄養が不足すると、新生血管をつくって解消しようとしますが、これらはとても脆く、出血や成分の滲出を起こしやすいため、網膜の損傷やゆがみを引き起こします。
初期や中期ではほとんど自覚症状はなく、進行すると視野に細かいゴミが飛んでいるように見える飛蚊症や、視力の低下といった症状が現れます。さらに進行すると網膜剥離を起こす可能性があり、失明のリスクが高まります。
一番の予防は血糖値の適切なコントロールです。適切な血糖値コントロールを続けることで視力を改善できるケースもありますが、基本的に糖尿病網膜症の完治は不可能で、病気の進行を止めることが中心となります。 新生血管ができている段階では、新生血管を抑制する抗VEGF療法、新生血管を焼き固めるレーザー光凝固術の治療が行われます。さらに進行している場合には、増殖組織の切除や剥離した網膜を修復する硝子体手術が必要になります。硝子体手術は、眼球を球状に保っている硝子体を吸引除去してから切除や修復を行い、液体やガスを充填する治療法です。
網膜で動脈硬化が起きることで血行が阻害され、眼底出血や網膜のむくみが起こる状態が網膜静脈閉塞症です。むくみの箇所によって症状は大きく異なります。急激な視力低下や、網膜全体への影響が現れることもあります。
抗VEGF薬を硝子体に注射し出血やむくみを抑制し、レーザー光凝固術でダメージを受けた網膜を焼き付けて病巣が広がるのを防いで、新生血管発生を予防します。
加齢などで「裂孔」という裂け目ができ、網膜がはがれてしまった状態です。病気や打撲などの外傷が原因となる場合もあります。網膜は剥離することで視覚組織としての役割を果たせなくなり、飛蚊症、存在しない光が見える光視症などが現れます。進行すると視力が低下していき、失明につながる恐れもあります。
治療では、硝子体が網膜を引っ張る力を弱めるために、バックリング手術を行った上で裂孔の周囲を凝固させて孔をふさぎ、剥離が進行するのを防ぎます。裂孔が大きい、あるいは硝子体内に増殖組織という膜ができてしまっている場合には、硝子体手術が必要になります。この場合は、硝子体を除去して裂孔を凝固させてガスを注入し、ガス圧で剥離した網膜を戻す手術になります。
網膜で出血が起こり、それが硝子体におよんでいる状態です。
網膜剥離や外傷、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、高血圧症、高脂血症、腎臓病などによって網膜の血流障害が起こり、出血や新生血管の発生による血液や成分の滲出が起こっています。視界のかすみ、ゆがみ、飛蚊症などが現れ、出血した場所や範囲により視界の欠けが生じる場合もあります。
原因となる疾患が多いため、それに合わせた治療が必要です。糖尿病や高血圧症など全身性の疾患であれば、その治療も重要です。軽度の眼底出血では抗VEGF薬の注射が主に行われ、レーザー光凝固術や硝子体手術が必要になるケースもあります。
外傷性白内障は、打撲などをきっかけとする白内障です。外傷は大きく「鈍的外傷」と「穿孔性外傷」に分けられます。
衝突や転倒などの鈍い衝撃により生じた鈍的外傷は、ゆっくりと水晶体の混濁が進む傾向にあるため、進行を遅らせる目薬などを用い、経過観察することがあります。病状が進行して視力が低下している場合は手術を行います。
刃物が目に触れる、鉄の破片が目に入るなどで水晶体を損傷する穿孔性外傷では、感染症などのリスクもあるため、速やかな受診が重要です。治療用のコンタクトレンズで傷を管理できる場合は、細菌の感染を抑えつつ様子を見ることがあります。眼圧が調整できない場合や、視力低下が生じている際は手術を行います。
視力低下で行う手術では、混濁した水晶体を分割して取り除き、眼内レンズに置き換えます。具体的な方法や難易度は外傷の程度で大きく異なりますが、最先端の手術方法としてあげられるのが、レーザー白内障手術です。医師個人の技術に頼る従来の手術よりも安全性が高く、多焦点レンズの性能を引き出しやすいと考えられています。
アトピー性皮膚炎に伴い、「視力の低下」「明るいところでみえにくい」「まぶしい」などの症状が現れるのがアトピー性白内障です。0~5歳、21~25歳の受診患者が多く、自覚できる症状が顕著なため、日常生活で支障を感じやすくなります。水晶体を覆う膜(水晶体嚢)から「ヒトデ状」などと表現される混濁が始まるのが特徴です。
原因ははっきりとわかっておらず、目に加えた刺激やアトピー性皮膚炎の影響、治療で使用するステロイド剤などが一因と考えられています。
初期の場合は、目薬で進行を遅くできる可能性があります。すでに進行している場合や進行を抑えられないときは、水晶体を眼内レンズに置き換えるレーザー白内障手術を検討します。
糖尿病白内障とは、糖尿病の方が併発しがちな眼疾患のことです。 血糖値の上昇に伴い「視界がかすむ」「ぼやける」などの症状が現れますが、原因ははっきりと解明されていません。 高血糖により、糖アルコールが水晶体の中に溜まり、細胞内浸透圧を上げることから水晶体内の水分が増加して、混濁が起こる説が有力です。 診察において糖尿病を原因とする白内障であると言い切ることは簡単ではなく、糖尿病や高血糖以外に原因がみあたらない場合に、糖尿病性白内障とされます。
初期の治療法となるのが、症状の進行を遅らせるための点眼治療です。 すでに低下している視力を回復させるには、白内障手術が必要です。 手術では濁っている水晶体を眼球から取り出し、人工の眼内レンズを移植します。
もう一つの治療法となるのが、レーザー白内障手術です。 コンピューターを用いて水晶体を解析し、解析結果にあわせてレーザーを照射する流れなので一般的な手術より精度が高く、目への負担を大きく減らせます。
先天性白内障とは、生後まもない子供に見られる眼疾患です。 生まれてすぐに黒目に濁りが生じ、白内障の症状が現れ始めます。 斜視や眼球の揺れ、弱視もこの疾患の症状です。10,000人に3人の割合で見られ、そのうちの25%が遺伝性とされています。子宮内感染も主な原因の一つで、妊娠3ヵ月までにウイルスに感染した場合は、白内障になる可能性が高いとされています。
治療法として最も多く採用されるのが手術です。 白い濁りが水晶体全体に広がっている場合はできる限り早めの対処が必要で、生後2~3週間での手術が理想的です。 最近ではメスによる切開手術だけでなく、レーザー白内障治療も選択肢のひとつとなっています。 手術後は矯正治療により視力の矯正を行います。 乳幼児の白内障では水晶体の代わりとなる眼内レンズを移植しません。 乳幼児期は視力が発達段階にあり、今後、視力が変わる可能性が高いためです。 できる限り良い視力を得られるように、コンタクトレンズや無水晶体用メガネによる矯正治療が必須となります。
2歳ごろから症状が現れだしたケースでは、水晶体除去とともに眼内レンズの移植手術も行えます。 ただし眼内レンズ移植手術は合併症などのリスクも考えられる治療法です。 成長による視力の変化で、レンズの度数が合わなくなり再度手術が必要となることもあります。